「私たちは、なぜ太るのか?」
この問いに対して、多くの人は「カロリーの摂りすぎが原因だ」と考えるでしょう。しかし実は、その認識は事実とは異なります。肥満の背景には、カロリーの過剰摂取だけでは説明できない要因が存在するからです。
もし「摂取カロリーを減らせば痩せられる」と信じ続けているとしたら、その時点でダイエットの本質を見誤っている可能性があります。本記事では、肥満医学の分野で語られてこなかった根本的な問題をひとつずつ整理しながら、なぜ多くのダイエットがうまくいかないのかを解説します。そして、「ホルモン」こそが体重増加の本当の原因であるという事実について、分かりやすく紐解いていきます。
多くの人が見落としている「カロリー方程式」の落とし穴

まず、一般的に「体重減少」はどのように理解されているかを整理してみましょう。
体重が増える原因として、第一に挙げられるのが「体脂肪」の存在です。体脂肪とは、体内に蓄積された「カロリーの塊」と考えられています。
体脂肪は次のようなシンプルな数式で表されます。
体脂肪 = 摂取カロリー(イン) − 消費カロリー(アウト)
この方程式そのものは、理論上100%正しいといえます。実際、この数式自体を否定する人はいません。問題は、多くの人がこの式を誤った形で理解している点にあります。
一般的に、摂取カロリーは食事内容、すなわ6696ち「個人の選択」の結果によって決まるものだと考えられています。一方、消費カロリーは運動量と基礎代謝率(BMR)に左右されると理解されがちです。なお、基礎代謝率とは、肝臓・肺・心臓などの臓器が、体温の維持や生命活動のために24時間消費しているエネルギーを指します。こうした考えから、多くの人は次のような結論に至ります。
「食べる量を減らし、運動さえすれば、必ず痩せられるはずだ」
そして、期待した結果が得られなかった場合、「意志が弱いからだ」と片付けられてしまうことも少なくありません。
しかし、これは大きな誤解といえます。なぜなら、体脂肪の増減は食事量や運動量といった「個人の選択」だけで決まるものではなく、「ホルモン」によって徹底的かつ精密にコントロールされている生理的なシステムだからです。
自然は「肥満」を許さない

ここで少し想像してみてください。野生の世界で、肥満のライオンやキリンを見かけたことがあるでしょうか。おそらく一度もないはずです。理由は簡単。脂肪が多すぎれば捕食者から逃げることが難しくなり、反対に少なすぎれば寒い冬や食料不足を乗り越えられられないからです。
動物にとって体脂肪は、生存に直結する極めて重要な要素です。だからこそ、その量はホルモンによって徹底的かつ厳格に調整されています。自然界は、こうしたバランスの崩れを許しません。
もちろん、この仕組みは人間にも当てはまります。1960年代から1980年代にかけての日本の高度経済成長期を振り返ってみましょう。当時、1人当たりGDPは20倍以上に増加し、食料供給はかつてないほど豊かになりました。にもかかわらず、成人の肥満率は2%未満にとどまっていました。ところが1990年代以降、欧米型の食生活が広がると、肥満率は10倍以上に急増しました。
よく「食べる量を減らせば痩せるのは数学的な必然だ」と言われます。しかし、この考え方は正確ではありません。なぜなら、カロリーの方程式には、実は三つの変数が存在するからです。それが、蓄積カロリー(体脂肪)、摂取カロリー、消費カロリーです。
この三者は独立して存在しているわけではなく、一つを減らせば、残りの二つが自動的にバランスを取ろうとします。特に影響を受けやすいのが、基礎代謝率の低下です。つまり、単純に食事量を減らすだけでは、体はそれに適応し、消費エネルギーを下げる方向へと調整されてしまうのです。
なぜ「ホルモン」が体脂肪を増やすのか|カロリー思考の盲点
カロリー中心の考え方における最大の問題は、因果関係を示す矢印の向きを取り違えている点にあります。多くの人は「食べ過ぎるから太る」と考えがちですが、実際には順序が逆です。ホルモンが先に脂肪を蓄積するよう体に指示を出し、その結果として食欲が増え、代謝が低下していきます。
その代表例が「インスリン」というホルモンです。インスリンは、脂肪の蓄積をコントロールする中心的な役割を担っています。炭水化物を摂取すると膵臓からインスリンが分泌され、脂肪細胞に対して「脂肪として蓄えるように」と働きかけます。
この状態が続くと、脂肪は次第に体内へ蓄えられ、同時に空腹を促す仕組みも活性化されます。その結果、体は「もっと食べなさい」という信号を出し続けるようになります。
つまり、問題の本質はカロリーそのものではなく、ホルモンバランスの乱れにあるのです。
なぜ食べる量を減らしても体重は落ちないのか?

「ただ食べる量を減らせばいい」というアドバイスが、思うように機能しないのはなぜでしょうか。その理由は、カロリーを減らすと体が非常に巧妙に適応するためです。具体的には、エネルギー消費を抑えようとして、基礎代謝率(BMR)が大きく低下します。たとえば、1日2,000kcalを摂取していた人が、1,500kcalに減らしたとします。最初のうちは多少体重が落ちるかもしれません。しかし体はすぐに「飢餓モード」に切り替わり、基礎代謝率を1,800kcal、さらには1,500kcal以下まで引き下げてしまいます。その結果、摂取カロリーと消費カロリーは再び釣り合い、体重は停滞します。場合によっては、かえって体重が増えてしまうことさえあります。
これを銀行口座にたとえてみましょう。貯蓄は「入金」から「出金」を引いた額で決まります。いくら入金が減っても、同時に支出が減れば、貯蓄額は変わりません。同じことが体にも起こります。摂取カロリー(イン)を減らしても、基礎代謝率、つまり消費カロリー(アウト)が下がれば、脂肪という「貯蓄」はほとんど減らないのです。
これこそが、多くの人が陥りがちな、いわゆる「ヨーヨーダイエット」のメカニズムと考えられています。
インスリンは脂肪を体内に固定する「鍵」

ここでは、肥満と深く関係するホルモンである「インスリン」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値が上昇した際に、肝臓や筋肉の細胞へ糖を取り込ませ、血糖値を下げる働きを担っています。
一方で、インスリンが過剰に分泌される状態が続くと、体脂肪の面では大きな問題が生じます。過剰なインスリンは、脂肪を「蓄えたまま固定する鍵」のように作用し、脂肪の分解をほぼ完全に抑え込んでしまいます。その結果、脂肪は燃焼されにくくなり、蓄積だけが進む状態になります。
さらに、インスリンの過剰分泌は、空腹ホルモンである「グレリン」も刺激します。これにより、体は常に「食べたい」「もっと食べる必要がある」という信号を出し続けるようになります。
では、現代の食生活はどうでしょうか。私たちの周りには、砂糖や精製された炭水化物を多く含む食品が溢れています。そして、これらには「インスリンを急激に上昇させやすい」という特徴があります。その結果、脂肪は蓄積され続け、代謝は徐々に低下していきます。このプロセスは、意志の強さや努力とはほとんど関係なく進行します。カロリーだけに注目したダイエットでは、こうしたホルモンによる体脂肪調整の仕組みを十分に解決できません。カロリー計算は、肥満の本質であるホルモンの問題を見落としてしまうのです。
ホルモンが空腹と代謝をコントロールしている
肥満は「意志力の弱さが原因で起こるもの」と考えられがちです。しかし実際には、空腹感や基礎代謝率といった要素は、ホルモンによってコントロールされています。たとえば、インスリン値が高い状態では空腹感が強まり、体はエネルギーを蓄積するモードへと切り替わります。反対に、インスリンが低下すると、脂肪は自然に燃焼し始めます。この仕組みを考えると、運動だけで痩せようとするのが難しい理由も見えてきます。ホルモンの状態が変わらない限り、体脂肪は減りにくいのです。つまり、運動量を増やしたり、食事量を減らしたりする前に、まず整えるべきなのは体内のホルモンの状態だといえます。
実際、多くの肥満や糖尿病の患者の中には、カロリー制限によるダイエットに何度も挑戦し、そのたびに失敗を繰り返す人も少なくありません。一方、オートファジー(自食作用)を促す断食や、ケトジェニック(低炭水化物)食事法によってインスリン値を下げた途端、強い空腹感やストレスを感じることなく、体重が自然に落ち始めたケースも数多く報告されています。
これは、ホルモンの働きを正しく理解することで、ダイエットがいかにシンプルなものになるかを示す、明確な証拠といえるでしょう。
CICOが見落としている「堂々巡りの落とし穴」
CICO(Calorie In, Calorie Out)モデルの最大の問題は、論理が堂々巡りになっている点にあります。「太るのは摂取カロリーが多いからだ」と説明されますが、それだけでは本質を十分に説明できません。「そもそも、なぜ摂取カロリーが増えてしまうのか」という重要な疑問が残るからです。
その答えはホルモンにあります。しかし、CICOモデルはこの問いを正面から扱わず、「努力が足りない」「自己管理ができていない」と個人の問題にすり替えてしまいます。
この論理的な欠陥によって、ダイエット産業は数十年にわたり拡大してきました。一方で、実際のダイエット成功率は約5%にとどまり、95%は失敗に終わるという、厳しい現実を生み出しています。ホルモンの視点から見ると、仕組みは極めてシンプルです。
インスリンの上昇→脂肪の蓄積→代謝の低下→さらに食欲が増す→再びインスリンが上昇する。
この悪循環が延々と繰り返されているのです。そして、このループを断ち切ることこそが、ダイエットの本質であり、最大のポイントといえます。
同じカロリーでも体への影響は大きく異なる

「どんな食べ物でも100kcalは100kcalだろう」
このように考える方も多いかもしれませんが、この考え方は正確とはいえません。
たとえば、クッキー100kcalを想像してみてください。クッキーは砂糖や精製された炭水化物が主成分で、摂取するとインスリンを急激に上昇させます。その結果、脂肪の蓄積が促され、血糖値が急上昇したあとには、強い空腹感が一気に押し寄せます。これは、インスリンが体に対して「エネルギーを蓄えなさい」という強い指令を出すホルモンだからです。
一方で、卵100kcalの場合はどうでしょうか。卵はタンパク質と良質な脂肪を中心に構成されており、インスリンの急上昇を抑えながら、満腹感を長時間維持します。すると体は「エネルギーが適切に補給された。このまま使って問題ない」と判断します。ここで重要なのは、カロリーはあくまで単なるエネルギーの単位にすぎないという点です。食べ物そのものは、体に対してさまざまな「情報」を送っています。クッキーは「今すぐ脂肪を蓄えなさい」という信号を送り、卵は「このエネルギーは安心して使っていい」というサインを出しているのです。
この違いを無視してしまえば、どれほど努力してもダイエットはうまくいきません。つまり、食事において本当に重要なのは「量」よりも「質」だということです。
私たちが口にする食べ物は、単なるエネルギーの塊ではありません。体に何をすべきかを指示する「情報」であり、「命令」でもあるのです。
まとめ
肥満の原因は、カロリーそのものではなく、ホルモンの働きにあります。CICOは科学的な根拠に乏しい考え方であり、本質的な解決策はインスリンを下げることにあります。
意味のないカロリー計算に固執する必要はありません。また、「低脂肪」という言葉だけを前面に出したマーケティングにも注意が必要です。その代わりに、私たちは次の問いを持つべきです。
「この食べ物は、自分のインスリンをどれだけ刺激するのか」
ダイエットが上手くいかないのは、怠けているからでも、意志が弱いからでもありません。体が「エネルギーを蓄えなさい」というホルモンの指令に忠実に反応しているだけなのです。
原因が明確になれば、取るべき対策も見えてきます。重要なのはカロリーではなく、インスリンというホルモンに着目することです。体の仕組みを正しく理解し、ホルモンの働きを意識した食事選択を行うことが、本質的なダイエットにつながります。
